火事場掛役人の『鳶口十手』
今回は、久しぶりに十手ネタです。
この場では、約4年前に製作した『鳶口十手』についてです。
◉項目
- 火事場掛役人について
- 与力の鳶口十手について
- 同心の鳶口十手について
- 製作した鳶口十手
1.火事場掛役人について
まず、町奉行所には南北両方に『町火消人足改(まちびけし にんそく あらため)』と言う部門があり、ここに配属された与力を『火事場掛与力』と呼び、同心を『火事場掛同心』と呼んだ。
この部門は、与力6名、同心12名で構成されている。
おそらく、享保の改革で町火消が誕生してから作られた部門だと思われます。
この火事場掛役人が出動する際は、町奉行は騎乗で、与力同心と小者(与力同心が使用人として使っている手下の者)などが36名、他に6名の共が付き、与力同心、小者は徒歩で移動する。
この時、町奉行は大小の刀、馬鞭、采配を持つ。
与力同心は、大小の刀と火事場掛用の十手を持つ。
ここで記した与力同心の火事場掛用の十手が、『鳶口十手』である。
2.与力の鳶口十手について
与力の鳶口十手は、以下の通りです。
火事場掛与力の十手は、真鍮製銀流しで九寸(約28糎)、紐付環が無く、鳩目を打った紐付の穴がつき、朱色絹製の房紐が付く。
末端には極めて小型の鳶口がつけられて、普通の与力十手と区別される。
です。
ここから解るように、与力の鳶口十手は、真鍮製銀流し十手と見た目が似ているようです。
おそらく、太刀もぎの鈎は付けられていると思います。
握柄末端の鳶口の有無、紐付環の有無で判断するようですね。
3.同心の鳶口十手について
同心の鳶口十手は、以下の通りです。
同心の鳶口十手は、鍛鉄製丸棒新に太刀もぎの鈎をつけ、紐付環が無く、手元末端には小さな鳶口を付けている。
黒漆塗りで、握柄を赤漆か、茶色漆掛けにしたものもある。
長さは、定寸前後(36糎程度)のものが多い。
です。
ここから解るように、同心の鳶口十手は、通常の町方同心の真鍮製銀流し十手と大きく異なります。
これは、やはり前線に立って活躍する同心ゆえ、指揮棒程度の十手ではなく、実戦にも使えるようにしてある事が、よく分かります。
鍛鉄製と言うのは、町方同心の捕物用長十手(打ち払い十手)と同じ材質ですし、火事場は水を使うため、それによって十手が錆びないように漆が塗られています。
4.製作した鳶口十手
私が約4年前に製作した十手が、こちらです。
製作時は、鳶口十手という存在しか知りませんでした。
改めて見てみると、これは火事場掛同心の鳶口十手に該当すると思います。
前は紐付環を付けていましたが、実物に近づけるため、環は取り除きました。
現場全体の指揮は町奉行、現場で部下に指示を伝え指揮するのが与力、前線に立って逃げ惑う民衆や町火消の指揮や暴動を抑えるのは同心って感じだと思います。
そのため、与力の十手は見栄えが良く、同心の十手は実戦向きな作りになっていると、私は思います。
火事場掛という部門は、名前だけは聞いた事がありました。
しかし、火事場掛役人の十手は存在が全く不明でしたので、ようやく詳細が分かりました。
通常の真鍮製銀流し十手、捕物用の長十手、火事場掛用の鳶口十手など、町方(町奉行所)は用途に応じて十手を使い分ける事が判りますね。
これは面白いです。