十手について 〜自分なりの見分け方〜
上記事で、『 贋作十手に多い特徴 』をご紹介いたしました。
今回は、私の主観にはなるものの、十手の見分け方について記事にいたします。
※ 注意 ※
前述の通り、これはあくまでも私の『 主観 』で記事を書きます。
そのため、ここで挙げた傾向、特徴があれば必ず本物、必ず贋物ではありません。
◉項目
全体的な雰囲気
先端面
太刀もぎの鈎
鮫皮の握柄
紐付環
1.全体的な雰囲気
先ず、日本古来の鉄には『黒錆』が発生するようなので、赤錆だらけで錆の具合が新しいものは、怪しいと思います。
当時、目明かし十手は『銀棒』と呼ばれるように、木賊の皮を使い十手を磨いていたようです。
※『木賊』は、現代の100番台の紙やすりのようなもの。
したがって、棒身は握柄より錆の具合が薄いと思います。
また、棒身に『錆』ではなく『黒皮』がついている十手は、贋物だと思います。
黒皮は、熱間圧延加工された鋼材に発生する酸化皮膜なので、古来の鉄であれば黒皮は発生しないと思います。
私は骨董市で、この黒皮がついていた十手を買ったことがありますが、その十手は贋物でした。
十手は手作業で鍛造して作るため、先細りや先太り、手作業ならではの造形美がございます。
そのため、綺麗に真っ直ぐ作られている十手は、工作機械を使ったものと考えられるため、近年製作された贋物の可能性があります。
2.先端面
(左:贋物の十手、右:本物らしき十手)
十手の先端面は、金星になぞらえて『宵の明星』と言うようです。
また、十手の先端面は『十手の顔』なので、ここが適当に作ってある十手は、怪しいと思います。
3.太刀もぎの鈎
太刀もぎの鈎は、敵刃を押さえたり、敵刃を捻って動けなくしたり、敵刃を奪ったりなど、十手の中で重要な部分であり、最も力がかかる部分です。
そのため、本物であればこの部分を適当に作ることは、まずあり得ません。
したがって、鈎の付け根が溶接されている十手は、贋物や模造品と見て間違いないと思います。
太刀もぎの鈎は、十手の棒身に矩形や正四角形の穴を開けて、そこにかしめ付けます。
かしめ穴が『矩形』なのは、鈎を捻って使う時に、鈎が回転しないようにするためです。
鈎のかしめ部の穴を確認するには、鈎の反対側を見れば分かります。
この鈎のかしめ部分が『円形』の十手は、贋物や模造品に多い傾向です。
※菊座を付けてかしめられている十手は、本物の可能性がある。
滅多にはありませんが、稀に『内かしめ』という棒身内で鈎をかしめる方法があります。
この場合、鈎の反対側を見ても、矩形の穴はありません。
鉄環に鈎を鍛接し、十手に焼きばめされている場合や太鼓胴鈎、鍔鈎も同様です。
十手は武器なので、鈎の太さや大きさも大切です。
(左:贋物十手の鈎、右:本物とおもしき十手の鈎)
そのため、鈎の大きさ、厚さを見るのもポイントだと思います。
4.鮫皮の握柄
私は、鮫皮の握柄の贋作十手を持っています。
しかし、『鮫皮の握柄の十手』を、全否定は致しません。
鮫皮の握柄の場合は、傾向があるからです。
鮫皮の握柄の場合は...
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十手握柄上下の縁金、柄頭と高さが等しく、ピッタリと鮫皮が張られている。
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十手握柄上下の縁金、柄頭が同じ材料で作られており、紋様や彫刻も揃っている。
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鮫皮の合わせ目は、鈎を付けた面で合わせている。
という傾向です。
これに該当しないものは、後世に作られたものだろうと、名和弓雄先生は著書で書かれておりました。
実際、私の鮫皮握柄の十手は、見事にこの傾向に当てはまらないです。
贋物に3万円は痛い出費でしたが、テンプレートのような『THE・贋作十手』なので、これはとても良い贋物の資料になります。
5.紐付環
紐付環も、前述の『太刀もぎの鈎』同様に、十手では重要な部分です。
紐付環は、名の通り房紐や捕縄を付けるための環で、十手は、必要に応じて房紐や捕縄を持ち振り回して使う事があるため、この紐付環も強度が必要です。
紐付環は『水平回転環』である場合がほとんどで、これは十手に付けられた捕縄や房紐を解く時、紐が絡まらずにスムーズに解ける様にするため、水平回転する仕様になっています。
紐付環は、このように作るようです。
※名和弓雄先生の著書『十手・捕縄事典』を参考。
十手握柄末端を打ち伸ばし軸を作り、台座から環になる細棒を打ち伸ばします。
台座を十手握柄末端の軸に付けて、軸先端を打ってかしめます。
そして台座から打ち伸ばした細棒を曲げ、先端を鍛接して紐付環になります。
もちろん、全部が全部この作り方をするわけではありません。
町方与力同心の『真鍮製銀流し十手』、関東取締出役の『鍛鉄製銀流し十手』、そして私がこの前入手した十手の紐付環は、上画像の作り方ではありません。
これは、どの様に作られているか不明です。
私は、この様に作ったのではないかと推測しました。
これは、十手握柄末端を打ち伸ばし軸を作り、紐付環台座になる環を、軸にかしめ付けます。
次に、環になるC型の部品を、台座に鍛接します。
この様に考えると、自分の中で納得できました。
紐付環は打ち伸ばして鍛接したり、付け根を鍛接して作りますので、紐付環が溶接されているもの、ボルト止めされているものは、贋物か模造品と思われます。
↑台座に溶接されている紐付環
↑ボルト止めされている紐付環
また、台座が水平回転し環がパタパタと倒れる紐付環や、環がパタパタと倒れるだけの紐付環は、贋物や模造品に多いです。
↑台座が水平回転し環がパタパタと倒れる紐付環
↑環がパタパタと倒れるだけの紐付環
台座が水平回転し環がパタパタと倒れる紐付環は、環に強度がありません。
この様に、環の部分が簡単に台座から外れてしまいます。
上画像のように、台座と環で材料が異なる紐付環は、基本的に贋物です。
環がパタパタと倒れるだけの紐付環についてですが、元々紐付環がない奈良京都の関西与力同心役人の十手が存在し、これに後世の人が後付けで、環を付ける場合がございます。
↑関西与力同心役人の十手
その場合、『十手は本物』という事になります。
時代劇でお馴染みの十手ですが、どうやら昭和30年代くらいまでは、警察で使われていたそうです。
新しめの十手でも、本物である場合があるのと同様に、古めで良い鉄味でも贋物の十手という事もございます。
◉参考資料
以下、敬称略。