時代劇における『十手等の誤認識』
刑事ドラマでは、捜査課の刑事がどんな捜査をしようと、どんなアクションをしようと気にはならないのですが、時代劇ではどうも気になってしまいます。
まあ、そこはやはり十手が好きだからでしょうね。
そこで、自分が見てて気になったところを、記事に致します。
◉十手の房紐色
これは、特に町方与力についてです。
なぜか世間では『与力 = 紫房』という感じになっており、時代劇でもそれは多いです。
しかし、町方は与力同心ともども、恩賞がない限り紫房紐の十手は持ちません。
時代劇で、恩賞を受けた故に紫房紐の十手を拝領するシーンを、確認することは可能です。
1974年NET版『右門捕物帖』第51話「雪の宿」という話です。
北町同心・近藤右門は、数々の功績が讃えられ奉行から紫房紐の十手を拝領するシーンがあります。
◉十手の持ち方
これは、誤認識というより正しい持ち方の作品を、紹介します。
十手の持ち方は、名和弓雄先生の書籍ではこのように記しています。
十手の握り方は、握柄に巻き付けられた紐の上から、右手で握る。
右手の甲が十手の表になり、右手五本の指先が十手の裏に当たる様に握る。
鈎の横手、表側から紐付環(緒付環)にむかって垂れている輪紐も、一緒に右手に握る。
但し、その輪紐は左によじって十手裏側の末端に、房の頭部球形がある様にして、房だけを右手薬指と小指の根元にしっかりと、房を手の甲の外に出して紐を挟み込む。
この様になっております。
名和弓雄先生著『十手・捕縄事典』からの引用です。
梅之助さんは房紐を小指と薬指で挟んでおり、これなら弾かれても十手を落とさずに済みます。
また、十手は太刀もぎの鈎の真下を持ちません。
十手的に1番有名な『銭形平次』だと思うのですが、こんな薄っぺらい太刀もぎの鈎でこんな持ち方をしては、相手に「どうぞ指を斬ってください。」と言っている様なものです。
鈎で刀を受けた途端に、指が斬られてしまいます。
これじゃ二丁十手が笑わせますよ。
十手は、人差し指&親指から3.5~4㎝ほど太刀もぎの鈎との間隔を開けて握ります。
こんな感じです。
これなら、鈎で刀を押さえても、指を斬られるリスクが減ります。
さらに、十手は太刀もぎの鈎を下側に向けて握ります。
上側に向けてしまうと、相手の袈裟掛けの斬り込みを、鈎で受け止めることが出来ません。
太刀もぎの鈎は、相手の斬り込みを受け止めるために使う場合があるため、これも間違いです。
◉御用提灯
十手では無いのですが、気になったので。
時代劇で有名な、真ん中に「御用」と書かれた御用提灯は、歌舞伎から流れてきたもので、特に本物の町奉行所の御用提灯は、このようになっていません。
本物の町奉行所の御用提灯は、この様になっています。
左右に「御用」の文字で、真ん中には「官庁名」の文字があります。
時代劇では、『同心暁蘭之介』、『右門捕物帖(1982年日テレ版)』で確認することができます。
この提灯、何処かのバカな視聴者が、当時放送中に「提灯が違う!」と滑稽なクレームをつけたそうです。
そのくらい、実際の御用提灯は知られていません。
今日までの時代劇は、歌舞伎の流れをそのまま反映させて作っているため、色々異なる部分があるのだと思います。
歌舞伎では、当時実物から乖離したものを小道具に使っており、提灯など小道具をリアルに作って使用すると、御上から厳しくお叱りを受けたそうです。
有名なので上では省きましたが、よく町方同心や岡っ引き、目明かしがひけらかす様に十手を腰に差す、あれも間違いです。
出役ならともかく、普段は見えないところに差すか、懐に仕舞って持ち歩いています。
↑この様に、警察手帳と同様に身分を明かす時に見せたりします。
これも歌舞伎からの流れですかね?
悪いことではありませんが、誤認識が多い印象ですので、この様に記事にいたしました。