適当だが...『鼻捻』について
鏑巻が出来ないかと思い、ある物を作ろうと思いました。
それは、こちらです。
『鼻捻(はなねじ)』
です。
◉項目
- 『鼻捻』とは
- 製作物
- 発見
です。
1.『鼻捻』とは
『鼻捻(はなねじ)』とは、馬用具でもあり、後に捕具としても使われる紐のついた棍棒です。
日本陸軍の馬部隊では『鼻捻子(びねんし)』とも呼ばれ、現在では『警棒』と呼ばれています。
この鼻捻は、暴れて手に負えない馬を大人しくさせるために使います。
そのため、馬を必要とする侍屋敷や旧陸軍の厩(うまや)の壁面には、備品として陣鎌と共に鼻捻が必ず掛けてあったようです。
鼻捻は、樫など丈夫な木材を使用し、形状は円形、六角形、八角形などで、直径3糎以上4糎以内、長さ30糎程に作ります。
棒の先端近くに穴を開け、そこに丈夫な紐を通し、紐の両端を固く結びます。
※この鼻捻は、馬の体格によって大きさは変わります。
この鼻捻の使い方を、以下に記します。
★鼻捻の使用方法
鼻捻の使用方法は、先ず棒の先端の輪紐を馬の上唇の上、鼻の部分に深くかけ、棒の反対端近くを握り、右に右にと棒を捻れば、輪紐がよじられ、馬の鼻を締め付けていく。
馬が痛がって動けば、棒の端を絞り捻りながら上に上げれば、馬は顔を斜め上によじられて動けなくなる。
※名和弓雄氏 著 『十手・捕縄事典 -江戸町奉行所の装備と逮捕術-』 から引用
この『鼻捻』が捕具として使われた理由は、当時大事な財産である馬を、馬盗人から守るためです。
この鼻捻は、陣鎌と共に厩にあるため、厩に盗人が入り込んだ時、咄嗟にこれらを武器(捕具)として使い、盗人を捕らえます。
鼻捻は、馬に掛ける輪紐を手貫紐とし、棒身を使って打ち払います。
木材で作られた鼻捻は軽量なため、非力な人でも使い易く安価に作れるため、関所、番所、侍屋敷、庶民の屋敷内に馬具、捕具、護身用の武器として備え付けられていたようです。
色々な場所で使われたため、握柄上端に鏑巻を施した鼻捻もあれば、棒身部は漆掛け、蛭巻紋様塗り、笄塗り、螺鈿、蒔絵定紋を施した鼻捻も、現存致しております。
2.製作物
こちらが、今回製作した『鼻捻』です。
これは、和服用ハンガーから製作したため、中空になっています(鼻捻は棍棒の様な物ゆえ、中実です)。
↓和服用ハンガー
全長は50糎、直径2.4糎です。
長さは良いですが、鼻捻というには少し細いですね。
雰囲気を出すためなのと、やってみたかった事もあり、握柄上端に『鏑巻(かぶらまき)』を施しました。
★鏑巻(かぶら まき)
鏑巻とは、矢や槍に用いるもので、糸を堅く巻き締めて固定し、漆で塗り固めたものである。
鏃の固定、血溜めなどのために施す。
私は漆を持っていないので、今回はDAISOの水性ニスを使用しました。
5回ほど重ね塗りを施したため、美しい艶が出て、良い仕上がりになったと思います。
握柄は、ただ木目調では質素なので、同じDAISOのレース糸を巻きました。
今回は一重に巻いただけですのが、基の棒身が直径2.4糎もあるため、握り心地は良いです。
3.発見
『鼻捻』には、鉄製鼻捻もあるようです。
鉄製鼻捻、これは外見がなえし(鈎無し十手)と似ております。
名和弓雄先生曰く「鉄製鼻捻となえしの違いは、紐付穴と紐付環以外は区別がつかないため、穴を開けて紐をつけた物を『鉄製鼻捻』、水平回転環の紐付環のものを『なえし』と区別している」ようです。
これを知り、私は『中村梅雀さんの伝七捕物帳』が浮かびました。
おそらく、この画像で中村梅雀さん演じる伝七親分が右手に持っている棒は、なえしではなく鉄製鼻捻では無いでしょうか?
鉄製鼻捻とすると、中村梅雀さんの伝七捕物帳では、なえしに鈎を焼きばめした十手も使用するため、貴重な小道具が見れる珍しい捕物時代劇だと思います。
鼻捻、これはこれで奥が深いですねぇ。
これは十手と異なり武家屋敷など馬が必要な場所では必需品のため、装飾も様々で面白く、また数も多いですね。
現在でもこの鼻捻は使われており、棒身の先端に紐ではなく鎖がついた物、鋏の要領で馬の鼻を挟む物もあるようです。